読売新聞

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東アジアの金融・貿易の中心都市として長い歴史を持つ香港。ここには、以前より減ったとはいえ、約27,000人の日本人が暮らしています。現地の日本人小学校も香港島側と九竜半島側に2校あります。それぞれ特色を誇る図書室を訪問しました。

□ 香港日本人学校小学部香港校

主に香港島側に住む児童が通うのが香港校(樗木昭寿校長、児童約310人)です。日本人子女が通う小学校としては、100年余り前の明治40年(1907年)に香港本願寺小学校が開校しました。その後、昭和41年(1966年)に同校が開校し半世紀余り。校舎(4階建て)はハッピーバレー競馬場から車で5分ほど上った山の中腹にあり、図書室を含む部分は4年前に改築されました。

「READING TRANSFORMS YOUR WORLD」(読書はあなたの世界を変える)という文字板が呼びかける図書室は、香港特有のムシ暑さやけん騒とは別世界。大きな窓から自然光がたっぷり入る南側は自然公園ジャーディン山の深い緑が借景となり、読書にふさわしい落ち着いた雰囲気を作っています。また、青と茶色のカーペットの模様から本棚、柱まで、すべてが緩やかな曲線でデザインされ、子どもたちをやさしく迎えているかのようです。

「昔の図書室のような暗く硬いイメージが嫌いでね。明るく安らげる部屋にしたかったんです」と話すのは、自ら図書室のデザインを手がけた同校事務長の樫村富士夫さん(54)。カーペットが描く曲線模様は「アンモナイト化石を模した」とか。小さいころから読書好きで、「少しでも気持ちよく本を読んでもらいたい」という樫村さんの思いを実現させた図書室。子どもたちは、「ズッコケ三人組」など国内でも人気の児童書を目を輝かせながら読みふけっているそうです。

ユニークな図書室をデザインした樫村さんが、「景色の良さやユニークさの点では、あちらもオススメですよ」と紹介してくれたのは、もう一つの香港日本人小学校・大埔(タイポー)校。さっそく翌日にお邪魔しました。

□ 香港日本人学校大埔校

大埔校(中谷扶美子校長、児童約620人)は、香港が中国に返還された1997年(平成9年)に開校。主に九竜半島側に住む児童が通っています。日本人学級だけでなく、外国籍の子どもたちなどが学ぶ国際学級(約160人)も併設されており、「グローバルな視野を持つ人材育成が目標」という「開かれた学校」です。

図書室は3、4階に分かれ、室内にあるゆるやかならせん階段でつながれています。「1階」は日本語の図書、「2階」は英語を中心とした外国図書の書架となっています。注目は「2階」にある、格子戸やふすま、床の間もそろった立派な16畳の和室。日本文化に親しむ目的で作られたそうで、日本人の児童には見慣れた畳ですが、国際学級の子どもたちには珍しい“日本式図書室”。昼休みなどに、英語の本を手に畳の上に寝ころびながら「気持ちイイ」と読書を楽しんでいるそうです。

「1階」に下りるとちょうど読書の時間で、子どもたちは思い思いの本を楽しんでいました。図書室を案内してくれた同校事務主任の村上純一さん(51)は「大人が新聞や本を読む姿を見て、子どもは本が好きになるんです」と言いつつも、「近頃は大人がスマホやネット中心であまり本を読まないので、子どもたちも日本語の“活字”に対する飢餓感が少ないようですね」とちょっぴり心配しているようでした。

図書室の東側の窓の外には、入り江状になった吐露湾(トーロー・ハーバー)のパノラマ風景が広がります。同湾沿いの道は香港でも有名なサイクリングコースの一つ。休日にはサイクリング好きの市民が、コンクリートジャングルの香港中心街にはない自然を満喫しに訪れます。しかし訪問当日はあいにくの曇り。晴れていれば見渡せたはずの、青い空とキラキラ光る水面を想像しながら同校を後にしました。

(2017年5月12日)

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