「やっぱりベートーベンですよ、基本は。ワーグナーの随筆に『ベートーベン巡礼』というのがありますが、やはりベートーベンを勉強して一生努力しなくてはいけない。巡礼というのは決してそこに行きつくことはない。そっちの方を向いて永久に歩き続けるってことです。スタートしてから死ぬまでやっても、ベートーベンに近づくことはできても行きつかない。ワーグナーが巡礼といったのは、そういう意味じゃあないですか」
「若い指揮者に言うんですよ。ベートーベンの九つの交響曲を全部暗譜しなさい、そしてそれを死ぬまで演奏しなさい、と」。朝比奈自身、ベートーベンへの長く充実した巡礼を行った人でした。音楽総監督を務めた大阪フィルと何度も連続演奏会を行い、このインタビューの時点ですでに3度もベートーベン全集を録音していました。朝比奈は自らの業績を振り返り、感慨深げにつぶやきます。「指揮者みょうりに尽きますなあ」(も)