虫めがね

「風呂屋の昨今」

 昔も今も人々の憩いの場である銭湯。近年は漫画や映画、サウナブームの影響もあり、若い世代にも親しまれています。昨今の銭湯事情を、ここ10年余りの過去記事で巡ってみました。

★“テルマエ”の灯をともせ

 ヤマザキマリさんの漫画をもとにした2012年の映画「テルマエ・ロマエ」のヒットをきっかけに、日本の銭湯文化が国内外から注目を集めました。
ロケ地となった東京都北区の「稲荷湯」は、1930年に建てられた宮造りの建物が国の登録有形文化財に。米国の財団からも保護すべき文化遺産として助成を受け、隣接する長屋を修復して地域サロン兼湯上がり処に再生しました。(2022年11月16日<銭湯帰り 長屋で憩う 「テルマエ・ロマエ」ロケ地 地域サロンに再生>)。


 東京都台東区の「寿湯」にはヤマザキさんが描き下ろした「銭湯絵」も登場。五輪・パラリンピックの競技に挑む古代の選手のユニークな絵が浴室の壁に描かれました。期間限定の試みでしたが、2021年5月26日<テルマエ味わう銭湯絵 ヤマザキさん描き下ろし 台東・寿湯>に写真が掲載されていますので、ぜひご覧ください。

 

★ダンスに音楽、文化拠点に

 風呂場をダンスフロアへと一変させたのは、東京都台東区の老舗「日の出湯」。2018年2月4日の都民版<[東京ホットぷれいす2018]ダンスに沸く・いい汗流して>で、参加者がヘッドホンを装着して同じ音楽を共有し、ダンスを楽しむ“サイレントフェス”の様子を写真をメインに見開きで紹介しました。その名も「ダンス風呂屋」。天井や壁をプロジェクションマッピングで彩り、踊りに熱中した後は熱い風呂で汗を流したようです。


 2022年12月10日<ユニーク銭湯 癒やされて バー併設、子ども無料… 若者、家族呼び込む>で紹介したのは、東京都墨田区「黄金湯」のユニークな取り組み。なんとDJブースやビアバーが番台に併設されており、昭和歌謡からジャズまでレコードの音色が響く中、クラフトビールが楽しめます。

 一時は廃業の危機にあった「黄金湯」の再生物語は、2023年6月12~16日の連載<[しあわせ小箱]風呂屋を沸かせ>(全5回)でも読むことができます。

 

★レトロを未来へ

 「銭湯を日本から消さない」をモットーに、関西を中心に活動しているのは若者らで作る団体「ゆとなみ社」。「銭湯活動家」を名乗る代表の湊三次郎さんは、2021年6月14日<[ネクストブレイク]ぬるくない 銭湯経営>で「本音を言えば、銭湯は無理な商売です」と語りつつ、「老若男女、誰もが利用できる。平等で開かれた、他にはない空間」を残すため、老朽化や後継者不足などで廃業予定の銭湯の事業を継承してきました。

 レトロで昔ながらの風合いをあえて残しながら、京都市の「サウナの梅湯」、大津市の「容輝湯」など数々の銭湯を復活させてきた歩みは、「ゆとなみ社」で検索するとたどることができます。

 

★被災地に寄り添う

 2024年1月20日<地震から再出発 銭湯 被災者に笑顔 「日常早く取り戻したい」>では、元日に発生した能登半島地震で被害を受けた石川県珠洲市の銭湯「海浜あみだ湯」の再開を伝えました。運営する男性は、地域おこし協力隊として同市に移住し、高齢の経営者からあみだ湯を引き継ぐ準備をしていた中で地震が起き、自身も被災しましたが、「少しでも前を向けるよう何かできるのでは」と、地震で折れた配管などを修理。断水が続く中、もともと地下水を使っていたことも幸いし、いち早く営業を再開できました。

 「小さな希望の積み重ねが復興につながるはず」と、地震で傷ついた人たちを癒やしていく決意を燃やしています。 

 

 様々な立場、世代の人たちを癒やす力のある銭湯。古き良き生活文化の保存と新しい文化の発信の場を兼ね、地域のつながりを醸成し、その価値が再確認されてきました。その流れを振り返りつつ広い湯船につかって、銭湯のある幸せを噛みしめてみてはいかがでしょうか。(真)