1975年10月21日夕刊で、ずばり[顔]と題する連載がスタートします。新聞の顔と例えられる1面に特大の顔写真を配した大胆なレイアウト。第1回は日本画家の東山魁夷、当時67歳。小学2年生の時、「希望」という題の作文で「お母さんに孝行して、読書や絵を趣味にし、平和に暮らしたい」と書いたら、夢がなさすぎると先生に叱られましたが、それから60年たっても「誠実で平凡な生活」こそ貴いという考えは不変でした。「自慢話も、悪口も、ない。純粋、無欲の画業」と記者は評しました。
[顔]は6年半に及ぶ長期連載となり、1982年3月30日夕刊で最終回の第1650回に登場したのは映画監督の黒沢明。「一番の気に入りはってことになったら、次の作品ですって言うほかに、しようがないんだよ」「芸術家ってのは、80を超してから本当に花開くんでね」と当時72歳の巨匠は抱負を語りました。海外の二つの映画祭から特別表彰の連絡が届いたところでしたが、「賞ばっかりもらってもね。それよりも、もっと仕事をしたいよね」。
東山魁夷に始まり黒沢明で終わったというと、偉い重鎮ばかり出てくる説教くさい連載と誤解されそうですが、第2回はウィンブルドン優勝のテニス選手・沢松和子(当時24歳)、第638回は人気絶頂の歌手ピンク・レディー(同20歳)という具合に性別も年代も様々な“顔”が、時に重厚に、時に華やかに、夕刊の顔を飾りました。(敬称略)(む)