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コラム「虫めがね」

「ニホンオオカミを紙面に追う」

 日本にもかつて生息していた野生のオオカミ。公式的には1905年(明治38年)に奈良県で確認された個体を最後に絶滅してしまったと考えられています。そんなニホンオオカミの足取りを、ヨミダスで昔の紙面などから探してみましょう。

ヨミダス通信202503ニホンオオカミ

★オオカミと人との戦い

 ヨミダスで「オオカミ」や「狼」などのキーワードで検索し、国内に生息していたニホンオオカミの古い話題を探してみたところ、読売新聞創刊から1年ほどの1876年(明治9年)1月10日<オオカミが出没、牛馬に被害 賞金目当ての農民ら猟の準備/岩手県>では、岩手県(紙面の表記では「陸中国」)で「近ごろ狼が大そうに出て牛や馬を喰ひ殺すゆえ狼を打ちとめたものへはご褒美をくださるといふ」と、オオカミの被害に悩まされ、駆除の対象として懸賞金がかけられていた記述がありました。

 これに反応する形で、同年3月17日には岩手県の人からこんな投書も。

 「狼の中に住む者の一理屈」として、「狼が沢山に居るのも国柄だろうなどと悪口を仰るお方もあるそうだがナンボ狼が多い国だと申して人の心まで狼ではありませんよ」とのこと<[投書]オオカミが多い岩手県だが 人の心はオオカミではない>。

 その後も岩手県にはオオカミが数多く出没し、1886年(明治19年)8月10日<岩手県九戸郡の山中でオオカミ退治 岩穴に爆薬、245頭を処分>と、現代ではとても考えられない方法ですが、害獣としてのオオカミ退治に苦慮していた様子が伝わってきます。

 

 ほかにも明治期の紙面には各地でのオオカミと人との軋轢を示す記事を見つけることができます。

 <草刈り中にオオカミに襲われた17歳の少女 別の女性が仕留め助かる/長野県>=1879年(明治12年)11月18日
 <北海道渡島で昨年1月から9月まで、狼と熊に牛21頭、馬411頭が殺される>=1881年(明治14年)1月9日
 <秩父・大滝村にオオカミ、木こりがかみ殺される>=1886年(明治19年)1月30日
 <全村総出で狼狩り 村民の手に負えず、警察署に狼退治を願い出る/福井県>=1895年(明治28年)7月27日
 <度胸ある若者 深山の中でオオカミと戦う/美作国(岡山県)>=1897年(明治30年)1月25日

 

 そしてなんと、最後にニホンオオカミが確認されたとされる1905年より後にも、野生のオオカミが退治されたと伝える記事も存在しました。

 1910年(明治43年)1月30日<群馬の山中で、人より大きい狼を射殺>では、群馬県の片岡村(現高崎市)の山林に「かねて大狼棲み時々被害あるより」、猟師が山に入りその大狼を見つけて仕留めたとの記述があります。「大狼」の目方は25貫(約94キロ)とのこと。それほど大きな動物が本当にオオカミなのか、その後どうなったのかは定かではありません。

 果たしてこの記事の真実はいかに…?

 

★動物園のオオカミ

 さらに、オオカミがこのころ動物園でも飼育されていたことを示唆する、気になる記事が。

 1909年(明治42年)627日<雨好きと雨嫌いの動物 上野動物園昨今の奇観>の中で、「狼は平素(ふだん)より陰鬱なる日を喜び(中略)降雨の際は頗(すこぶ)る好機嫌にて決して粗暴の挙に出でず」と、上野動物園でオオカミが飼育されており、雨を喜ぶ様子がみられたことが書かれています。

 1914年(大正3年)1225日<鶴の母子喧嘩 暮で動物園も不景気>にも、「狼は本年三月生まれで背丈一尺七寸身長二尺四五寸ある、その特徴は背中に黒みをもって毛が逆立っていることで、ほかは山犬に似ている」とあります。

 これらもニホンオオカミが絶滅したと考えられている1905年より後の記事であり、このとき飼育されていた「狼」の種類や出生地は、記事からは読み取ることができません。

 しかし昨年、国立科学博物館でニホンオオカミの国内4点目の剥製が中学2年生の小森日菜子さんにより発見されたことが話題になり、52日の読売KODOMO新聞にも取り上げられました。その剥製は、長らく謎の動物とされていましたが、実は1888年に岩手県から上野動物園に連れて来られ、飼育されていたニホンオオカミだということが小森さんらのまとめた論文で示されたとのこと。

 小森さんの発見したニホンオオカミと、先述の動物園の「狼」の関連性など、想像するだけでもロマンが広がります。

 

★生存の可能性?

 戦後、1970年代にはニホンオオカミとおぼしき動物の捕獲例がいくつか掲載されました。

 1973年8月18日<ニホンオオカミ生存か オスの子、死体で発見 和歌山の果無山系>、同月21日<またニホンオオカミ? 今度は中学生が生け捕り 果無山系 論争に“決め手”か>によると、和歌山県でニホンオオカミに特徴が近い動物の子供が相次いで2匹発見されました。果たしてオオカミか、ヤマイヌか、タヌキかと論争が巻き起こり、体毛に「オオカミ特有の魚鱗状紋」も確認されましたが、はっきりした結論は出ていません。

 1978年にも<エッ、ほんと? 鑑定教授は「似ている」 先月ワナに 三重山中オオカミ騒動>(2月4日)と、「頭の形や足に水かきがある点」などオオカミと共通点がある動物が三重県の山中でわなにかかったと報じられました。1905年の「最後のニホンオオカミ」と同じ大台山系で発見されたことから話題になりましたが、こちらも確実なことはわかっていません。

 いずれも写真付きで掲載されていますので、気になる方はぜひ検索してみてください。

 

★神秘的な存在として

 1959年(昭和34年)3月14日<[動物と人間と]=2 オオカミ 日本では“神さま”>にあるように、オオカミは日本では敵として恐れられるだけではなく、作物を荒らすイノシシやシカを追い払ってくれる存在でもあり、文字通り「大神」として、埼玉県秩父市の「三峯神社」をはじめ全国各地で古くから信仰の対象にもなってきました。

 秩父では2002年に<秩父の民家「魔除け」の毛皮、ニホンオオカミだった 国内4例目の確認>(3月8日)、<ニホンオオカミの毛皮 国内5例目を確認/埼玉・秩父>(5月25日)とニホンオオカミの毛皮が相次いで確認され、神社の博物館で展示されました。

 こつぜんと姿を消してしまったニホンオオカミは、神秘的な幻の動物として人々を惹きつけ続けています。(真)

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